「教員の質の低下」について

 「教員不足」に追い打ちをかけるように、教員になろうとする人も減少しています。教員採用試験の倍率は低下し続けており、ほとんどの自治体で2倍未満になっています。今のところ1倍未満になってはいませんが、前述のように「教員不足」が発生していることを考えれば、そもそもの募集人数が不足しているとも言えます。このままの状態が続けば、「教員不足」を解消しようとして募集人数を増やした場合、1倍未満になってしまう自治体も出るでしょう。

 教員志望者が減少すると、「教員の質の低下」が懸念されます。実際、教員による不祥事が増加傾向にある自治体も少なくありません。体罰やわいせつ行為など、報道で目にするような不祥事はごく一部であり、大きな問題として取り上げられない不祥事も数多く発生しています。

 「質の低下」という言葉は多くの要素を含みますが、不祥事の増加に表れているのは「人間としての質の低下」です。「社会人・職業人としての質の低下」とも言えるでしょう。その人の「倫理観」や「価値観」、「社会性」や「道徳性」、「見識」や「生き方」が問われているのです。教員のこうした力(倫理観・社会性・見識など)が低下すれば、子供達のこうした力を学校で育てることができません。社会全体から、それらの力が徐々に失われてしまいます。

 社会全体の犯罪発生率に比べれば教員の犯罪発生率は低いため、教員の不祥事は批判するほどのことではないと主張する声もありますが、低いのが当然なのであって、「不祥事の増加」を許す理由にはなりません。教員の立場・役割を考えれば、それに適した「質」を確保したいというのが社会の当然の要求です。こうした要求のレベルを下げざるを得なくなっているのが現状だと思いますが、それはつまり、「国家としての質の低下」を意味します。人をつくるのも、国をつくるのも教育なのであり、「教育の質」とは、つまり「教員の質」なのですから。

 

 具体例として、最近の不祥事を見てみましょう。

 

○ 姫路女学院高校のソフトボール部顧問(40代男性)が、地区大会にユニホームを忘れて来たことを理由に生徒(16)の顔をたたく。女子生徒は顎が外れた状態であったが、5時間以上立たせたまま、「帰れ」「お前なんかいらん」などと暴言を浴びせ続けた。大会は翌日も行われたが、そこでも尻を蹴る、頭をたたくなどの暴行を加えた。

 

 体罰は減少しているものの、なかなか無くなりません。特に、運動系の部活動における体罰は根深いものがあります。虐待や体罰は連鎖する傾向があるようですが、自分が過去に体罰を受けていたとしても、体罰を肯定する理由にはなりません。体罰や暴言なしで指導ができないとすれば、単純に指導力が不足しています。教育者としての適性がないと言わざるを得ません。

 上記の例は、体罰の事例の中でも特にひどいものですが、さらに衝撃的だったのは次の事例です。

 

○ 埼玉県の小学校の教諭(24歳女性)が、給食に漂白剤を混入。カレーの入った食缶を開けた際に児童が異臭に気付いたため、健康被害は発生しなかったものの、全校児童の安否確認などで学校は騒然となる。逮捕された教諭は、動機について「昨年度担任していたクラスの担任を外され悔しかった。人事にとても不満があった」などと供述。

 

 漂白剤を混入されたクラス(6年)は、逮捕された教諭が4年・5年と2年間担任していたクラスでした。何年間継続して担任を務めるかという基準は、地域や学校によって多少の差はありますが、基本的には長くて2年です。3年連続で担任することは、ほぼあり得ません。そんなことは当然分かっていたはずですから、不満を感じていること自体が筋違いです。そして何より許せないのは、その身勝手な不満を、2年間も担任していたよく知る児童に向けたことです。子供の安全を守ることは、教員の最重要の職務だと言えます。取るに足らない自己の都合で子供の生命を危険にさらすような人間に、教員になる資格はありません。

 この教諭は、児童や保護者の評判は良かったようです。結果から考えれば、周囲からの評判を高める行動も、自分本位の身勝手な動機によるものだったのでしょう。対人経験の少ない児童や、教員との接触が少ない保護者が、教員の人間性を見抜くことは難しいものです。ですから、監督する立場の校長や教頭、教育委員会などには、しっかりと仕事をしてもらわなければなりませんし、採用の段階で良い人材を集めることが重要なのです。

 ここまでひどい事例は極めて希ですが、大きな問題が発生する背後では、小さな問題が増加しているものです。「教員不足」・「教員志望者の減少」という現状は、適性を欠く人物でも採用せざるを得ない状況に追いこまれているということですから、放っておけば今後も不祥事は増加し、より悪質なものも発生するでしょう。大切な子供達を預ける学校ですから、国民全体で関心を高め、改善していかなければなりません。今すぐに、です。