「教員不足」について 3(非正規教員のこと)

 悪化する「教員不足」の主な原因は、予算をケチる行政。それがよく表れているのが、「非常勤講師」「臨時的任用教員」「再任用教員」などと呼ばれる「非正規雇用の教員」の状況です。

 2022年5月の時点で、非正規雇用教員の割合は17.82%(小学校16.56%、中学校17.74%、高校18.68%、特別支援学校22.36%)。6人に1人以上の割合です。当然、地域や学校によって差はありますので、さらに高い割合になっている学校も多くあります。

 非正規雇用の教員が増えた原因として、「定数崩し」と呼ばれる義務標準法の改正(2001年)があります。小学校は35~40人を1学級、中学校と高校は40人を1学級として教員の定数を算出し、国の負担額(義務教育費国庫負担金)を決めていましたが、非常勤講師も算入してよいことになりました。正規教員にだけ使えた補助金が、非常勤講師にも使えるようになったということです。単価の安い非常勤講師を増やそうという発想になるのも無理はないのかもしれません。

 そして、小泉内閣が2004年から実施した「三位一体改革」が大きく影響します。「国庫補助負担金の廃止・縮減」「税源の移譲」「地方交付税の見直し」の三つを一体として進めた改革なのですが、各自治体の教育財源は不安定で脆弱なものになりました。その一環として、義務教育費の国庫負担金が減額され、教員給与の国の負担が2分の1から3分の1に減りました。しかも「総額裁量制」の導入によって国庫負担金の使い道は自由になり、「国立学校準拠制度」が廃止されたことで、国立学校教員の給与額に準拠していた教員給与額を自由に決められるようになりました。

 つまり、財源確保は難しくなり、教育予算(教員の給与)は自由に削減できるようになったのです。その結果、多くの自治体は教員の給与を削減しました。その状況では当たり前なのかもしれませんが、教育の重要性に対する各自治体の見識が露呈したとも言えるでしょう。

 教育予算をどうケチるか。その方法が非正規教員の増員でした。安く雇える人間を増やして、教員一人あたりの単価を下げたわけです。不況の続く日本では、非正規雇用の増加は民間企業でも問題になっていますが、教育公務員の世界でも同じことが起きていたのです。しかし、民間企業では定着しつつある「同一労働・同一賃金」の考えが、教育界にはまだまだ定着していません。企業では、正社員と同じ業務や責任を非正規社員に負わせることが禁じられていますが、非正規教員は正規教員とほぼ同じ業務や責任を負わされており、給与や休暇などの雇用条件は悪いのです。

 急激な少子化も、非正規教員の増加に影響しています。解雇できない正規教員を増やしたのに、少子化で学級数が減って教員が余るようなことがあれば、無駄に給与を払うことになると思うのでしょう。いつでも首を切れる非正規教員は安くて便利な緩衝材なのです。分かりやすい事例としては、新入生の人数がギリギリ3クラス分だという場合、新1年制の担任には非正規教員が1人は入ります。転校などの都合で新入生が減り、2クラスになってしまった場合に切り捨てるためです。

 非正規雇用の教員は、産休や病休などの穴を埋めるために雇用される場合が多いため、雇用期間も保障されていません。雇用・解雇は年度の途中で不規則に行われますし、休職中の教員の復帰が早まったなどの理由で、突然解雇されることもあります。勤務開始日を、4月1日ではなく「入学式当日から」などと設定して、4月分の諸手当を支給しないような予算のケチり方も常套手段です。

 雇用が継続されるか不安な弱い立場ですから、理不尽な仕事もなかなか断れません。正規教員より多くの仕事を抱え込んでいる人もいますし、非正規教員が担任したがらないクラスの担任を任されることもあります。病休補充で雇用される場合には、学級崩壊によって担任が精神を病んだというケースが多いのですが、正規教員が心を病むほどに荒れたクラスを、初対面の非正規教員が年度途中に突然任されることになります。どれほど苦しい状況になるか、想像できますか?

 私自身も非正規教員として長く働きましたが、病休補充として3学期開始のタイミングで雇用されたことがありました。病休に入った担任は3月に戻るとのことで、私に与えられた時間は2カ月。かなり厳しい戦いを強いられましたが、校長が「なんとか立て直したい」という熱い思いを持っていてくれたので、共に乗り越えることができました。ちなみに、病休の担任を3月に戻したのは、別の学校へ移動させる手続上の都合です。私個人は子供達のためになれば満足ですが、こんな使われ方をされれば、非正規教員は疲弊していく一方でしょう。ボロボロにして使い捨てるつもりだとしか思えません。結局、正規教員にならないまま、教職を離れてしまう若者も多いのです。