テストの珍解答に思う

 ある高校で、新入生の入学時に行われたテストの話です。私は社会科の採点を担当したのですが、思わずツッコミたくなる解答が多々ありました。

 

 例えば、「日本に初めてキリスト教を伝えた人物は?」という問題。歴史上の人物の中でも、不思議なほど有名な「ザビエル」が正答なのはもちろんですが、不正解の中でも特に衝撃的だったのは「イエス・キリスト」です。まさかの、キリスト教創始者ご本人が、極東の島国まで布教に来られたという斬新な主張。神の子ゆえのミラクルを発動させれば可能なのかもしれませんが・・・。

 

 続いて、「第二次世界大戦後、日本が独立を回復した後もアメリカの統治が続き、1972年になって日本に復帰した都道府県は?」という問題。もちろん、沖縄県が正答です。それ以外の都道府県が入り込む余地はないように思えますが、思いがけず多くの不正解がありました。その中でも大問題だったのが「滋賀県」と「岐阜県」です。

 

 こうした珍回答はテストにはつきものですし、なんとか答えをひねり出そうとした結果として思わず生まれたものは、かわいげがあって好感が持てます。しかし、上記のような誤答には危機感を感じます。

 

 ザビエルの件で言えば、「イエスの生きていた時期」と「日本にキリスト教が伝わった時期」がいつ頃なのか理解できていないことが分かります。大航海時代以後の欧州各国による植民地政策とキリスト教布教の関係性、貿易による勢力拡大を狙う戦国武将とキリスト教の関係性なども、理解できていないだろうと思われます。青森県に「キリストの墓」なる物があり、イエスは日本で亡くなったという話が伝わっていたりしますが、それを根拠にして解答したとすれば、テストで問われていることを理解する力が欠けていると言えます。

 

 沖縄の件では、ソ連・中国に隣接している日本に東西冷戦の前線基地を置きたいという「アメリカが占領を続けた理由」や、軍事基地の建設における港の重要性などを理解できていないことが分かります。理解できていれば、海の無い内陸県は最初に除外されるはずです。「滋賀」「岐阜」は絶対に選びません。まあ、「滋賀」「岐阜」がどこにあるのか知らないのかもしれませんが・・・。現在の沖縄県に多くの米軍基地が置かれていることも、知っているのかどうか怪しくなってきます。知っていてこの解答であれば、推測する能力が低いということになるでしょう。

 

 こうした状況は、子供達の学習が「テスト対策の単語の暗記」に偏っていることの弊害とも言えます。歴史や地理といった社会科の分野は、とかく暗記科目と思われがちですが、語呂合わせで年代や人物名を覚えるだけでは、いつまでたっても「この勉強ってなんの意味があんの?」という段階から抜け出せないと思います。残念でなりません。本来の社会科は、無数の事象が複雑に絡み合った「社会」の仕組みや動きについて理解を深め、これからの社会の改善につなげるための学びです。特に義務教育段階の社会科が、そうした深い学びの場であってほしいと願って止みません。